yamauchinaoの日記

漫画を描いたりしています

グループレッスン:七回目

先週は知恵熱のようなものが出たのもあってレッスンに行けなかった。ちょうど単行本発売と被っていたから疲れが溜まっていたのだと思う。ちなみに先生たちのお祝いミロンガは仕事の進捗的に難しそうなので行けないと伝えた。私がめちゃくちゃにパワフルでないことがとても悲しい。
前回は右回りのヒーロが出来ないと言ってメソメソしていたが、今日はオーチョアトラスもオーチョアデランテも出来なくなっていて「ヤバい」と思った。動画で確認したり自主練したり週を空けずにグループレッスンに参加することはやっぱり必要で、忙しくても隙間を見つけてやるしかないなと思った。先生とグループレッスンに参加する皆さまのおかげでなんとか頭のなかに彼らが帰ってきた。もう記憶を離さない……つらすぎる……。
そんなこんなを乗り越えてオーチョアトラス・オーチョアデランテ・クニータを組み合わせた動きをやった。やってみたら前よりもしっくりくるようになってきていて、やはり練習すればするだけリターンがある感触がする。

今日はプライベートレッスンについての具体的な相談をした。週に二回くらいやるのがいいとのことで、それならなんとか自分の原稿料から出せるだろうかと思っているところである。プライベートレッスンだけではなくてグループレッスンも続けていくけれど、やはり早く確実に上手くなりたいのでプライベートレッスンをやるしかないという判断です。お金はかかるけれど久しぶりにはまることが出来た身体を動かす趣味(中学生の頃はゴールキーパーの「練習」が趣味だった)なので、出せるところはお金をしっかり出していきたいと思う。そして毎週末ミロンガに出掛けてアルゼンチンタンゴを楽しむような、そんな生活をしたい。

セクシュアリティ関連で本日ウッとなることは一つもありませんでした。はなまる。

グループレッスン:六回目

今日は右回りのヒーロをやった。一歩前に踏み出してから右足に重心を置き、フォロワーの人が回ってくれるのを腰の向きを合わせながら待って五拍目で左足を置き、オーチョが入り、六拍目で足を揃えて、レソルシオン。確かこんな感じだったかと思う、間違いを見つけた優しい人がいたらTwitterで教えてください。

右回りのヒーロはもう惨敗も惨敗でひどい有り様なのだが、5月初旬には先生たちの諸々お祝いミロンガがあるらしく、それに合わせてデビューすることに決めた。ミロンガでなんとか踊りきるためにそろそろ個人レッスンに手を出す必要が出てきたかもしれない。実は連載が始まることになりそうで、正直自分のキャパシティがまずい気がするが、そこはなんとか乗りきっていただきたいぞ私。

ミロンガデビューにあたって先生方から服装について色々と助言をもらったのだが、どうやらリーダーをやっている女性(推定)のひとたちはユニセックスな服を着てくることがよくあるらしい。実際に見るのが楽しみだし、私もその一群に入るのだ、と思うと少し面白いような気持ちになった。今日は疲れたのでここまで。

グループレッスン:五回目

普段は終わってすぐに記録を付けるのに、今回はへとへとでそれすらできず週が明けてしまった。先週は身体が怠すぎて動けなかったので休んでおり、今回は久しぶりのレッスンになったのですが、いやあ全然踊れないですね…びっくりしたわよ……。オーチョ・アトラスが出来なくなっていたのでそれを身体が覚えるまで叩き込んでこ、って感じで指導を受けました。

新しいステップとしてはガンチョを学びました。えっどうしてそうなるのか分からん、みたいなステップなんですけど(具体的には相手の足と足の間に自分の足を差し入れて相手の足を跳ねてもらって受ける……私のつたない文章だとちっとも伝わりませんね)、なんとか熟練フォロワーの皆様のご協力のもとにほぼ無事に行われました。今のところぜんぜん恰好良くないんだけどこれが自然にできる日が来るのかな、と思ってるところです。

私が紹介されるときはたいてい「リーダー志望で期待の星の女の子」と呼ばれているけれどそうじゃないんだよなあと内心で思いながらニコニコとそれを受容しています。カミングアウトすることになるとしてももっと後になって信頼関係が築けてからでいいかなと思っているので。ただこれはシスジェンダーに見える私の見た目の特権でもあるので、そこのところは忘れずにいたい。すべてのトランスジェンダーが習い事をひとつの不安もなしに出来る日が来るといいなと思う。

グループレッスン:四回目

今日はサリーダをやった。簡単に言うと七歩で歩くだけ、もうちょっと踏み込んで言及すると四歩目で足を揃えて相手が足をクロスするようにリードをしその後三歩歩くステップだ。このクロスしてもらうためのリードが難しく、意図をフォロワーの人に優しく汲み取ってもらってようやく伝わることがあるくらい。これをオーチョアトラス・サリーダ・オーチョアデランテの流れで踊ることとなり、完全に頭が真っ白になった。
もちろんいくつも足の運びを間違えたし、抜けたステップもたくさんあった。これが組み合わせるってことなのか、と思いながらとにかく言われた通りのことを一通りやってみる。まるで積み木のようで、上手くなったらこれは面白かろうなと思った。まだ上手くないのでアワアワと怯えてばかりだが。
そういえば前回言及した私と踊ってくれない人が今日は初めから踊ってくれた。向こうももう避けようがないと諦めたのだろうか。私としては避けられているというストレスがなくなるのでとてもうれしい出来事だった。
そして先生たちがデモンストレーションをやるミロンガのお知らせがあり、私は指を咥えながらその話を聞いていた。私はいつミロンガに出られるのかしら。半年後にはおずおずとでも顔を出せるようになるといいのだけれど。
今日はセクシュアリティの話はない。私がいないところで色々と言われているかもしれないが、とりあえずいまのところは適度な異物としてその場にいるだけだ。

グループレッスン:三回目

今日のレッスンは今までやったものを振り返る日だった。二人組になって全員が円を描く。同じ方向に進みながらステップを踏み、ある程度踊ると先生の声を合図にフォロワー側がひとつずれて次へ移っていく。もちろん私は「すみません…すみません……ありがとうございます!」と言いながらおたおたとリードをすることになる。フォロワーの方々は「頑張れ!」「大丈夫出来てるよ」などと優しい声をかけてくれる。今のところ私という異物に対して親切である。

オーチョアトラスのあとにオーチョアデランテ、レソルシオン……と組み合わせて踊るようにと言われた時には頭が沸騰しそうになった。そこにクニータという新しいステップも入ってきた。この日記は私の記録のために書いているので詳しい説明を省くが、要は前後に動くだけである。これが私にはまだ難しい。簡単な動作なのにぎこちなくなってしまう。

ふたつ前の段落の最後で「今のところ私という異物に対して親切である」と書いたが、”皆さん”ではない。リーダーが女性だとちょっと……と話していたフォロワーのひとのひとりがどうも私を避けているようで、ひとつずつずれて回っているはずがいつまで経っても私のところへ来ることがなく、先生が「あれ?」となる一幕があった。(外から見たら)女ふたりが踊るということにレズビアン的な要素を感じて、それを回避したいと思っているのだろうか。そう思っていたら最後のほうに一回だけ踊ってくれた。次があったら初めからふつうに踊ってくれるととても嬉しい。苦手なことはだれしもあるだろうから無理にとは言わないが、私の見た目が"女性"に近くなかったら当たり前のように踊ったのでしょう、と思うと胸のあたりがじりじりする。なんとかなってほしいと思ってしまう。

ちなみにとってもいいニュースもある。先生たちが「男性は~」「女性は~」という言葉を使わないように気を配ってくれるようになったことだ。「リーダーは~」「フォロワーは~」と言いながら説明をしてくれるため、居心地がたいへんいい。なにかきっかけがあったのだろうか。このブログが誰にどうやって読まれているのか分からないので何とも言えないが、もし先生たちが読んでくださっているようなことがあれば本当にありがとうございますと言いたい。グループレッスンの場が、だれもが安心してなんでも挑戦できる環境であるといい、と思う。

わたしはいまやわらかい声をだしている

自分の声が嫌いだった。どんなにメンズファッションに寄せた格好をしようが、外で店員さんに声をかけられた瞬間、口から出てくるのは高くて細く、絶望的なまでにべっとりと性別を振り分けられる声だ。

外見と声との落差を痛いほど感じて、私の心からは感情がザッとふるい落とされ、ただただ相手が嫌悪を催さないようにと従順にふるまってしまう。おすすめしてくださった商品に興味があります、ちょっと見せてもらってもいいですか。本当はそれまで私への対応をどうしようか悩んでいたくせに私が声を発してから”やっと見つけた”とでも言いたいかのように何度も何度もしつこく「女性でもお使いいただけますよ!」と言う店員さんの口にジッパーをつけて閉じてしまいたかった。そんな暴力的なことを思うくらい、私はその場で「女性だ」と言われ続けたことに苦しめられていた。苦しめられているのに相手が好みそうな対応をしてしまう。それ、ひとつ買おうかな。そのあと他の店も回ったが心地いいと感じる場所がどこにもなかったので帰ることにした。家に辿り着いてから二千円と引き換えに手にした、爪で引っ搔いただけですぐに落ちてしまう男性用身だしなみネイルをぼんやりと眺めていた。

この事件があってから私は自分の声が自分をいつか殺すのではないかと恐怖するようになった。

自分に殺されてはたまらないので慌てて対応策を練った。行きついた先がボイストレーニングだった。トランスジェンダーの友人たちのなかで、声で性別を即断することが出来ないような人たちがちらほらいたため、私も訓練することで同じようになれると思ったのだ。どきどきしながらSkypeの画面越しに先生に会った。どうなりたいのか、どうしていきたいのかを話す。「少年声くらいだったらなれるかもしれません」と言われて、舞い上がりそうな気持ちになる。この私が、少年のような声を持つ人間になれる……?

実のところを言うならば喫茶店の渋い男性店主のような声になりたかったが、無茶も無茶であるというのは分かっていた。少年声というものであっても、女性であると勝手に判断されないような声が手に入るのならばなんでもよかった。泥の沼で藻掻く私を助けてほしい。助けてもらえるのなら、なんでも、なんでもやります。

レーニングというものは総じて地味で回数を重ねていくしか他に上達の方法はなく、ボイストレーニングもまた同じだった。回数を重ねるごとに声に張りが出てくる。低い声も出せるようになってきた。しかしそれは”女性”の音域を出ない声である。レコーダーで何回も自分の声を聴いてみたけれど、少年声に達するにはあと数年はかかるのではなかろうかと思う進捗状況である。そんなとき、喉に違和感が出るようになった。低い声を日常的に使うようにと言われてその通りにやっていたのだが、私にはその音が低すぎて声帯を痛めてしまっているらしい。そこからトレーニングの内容はいかに喉への負担をかけないようにしながら低い声を出すか、というものに変化していった。当然、低い声は出しづらくなるわけで、少年声なんてものもさらに遠のくこととなる。ボイストレーニングでも突破できないものがあるのだ、というある種の諦めが生じたのはこの時点だった。

ある日、先生に「ボイストレーニングをやめます」と伝えた。ちょうどアルゼンチンタンゴへの興味も出てきたところで、仕事のことを考えても私にとってやることが多すぎることも理由のひとつにはあった。でも一番大きな理由は自分の声はもう、どうにもしようがないのだ、という感覚だった。私はおそらくこの先たくさん頑張ったとしても、口から声を発した瞬間に「女性だ」と勝手に振り分けられてしまうだろう。そのことを引き受けるしかないのだ。勝手に振り分けられたときに「それは違います」ときっぱり言うなり、スルーして相手が作り上げている架空の女性の役を演じるなりするしかない。私なりに声を変えることを頑張ってみたけれど、身体に負担がかかって将来的にポリープなどが出来てしまう可能性が高くなるのは嫌だ。

自分の声を低くコントロールすることを諦めてから人と話す機会があり、そのときに「あなたの声は柔らかくて心地がいいからもっと話したくなってしまう」と言われた。なるほど私の声はそのようにも聞こえるのか、と思い、目から鱗が落ちるような気持ちになった。それならいいじゃないか。話す相手にとって気持ちがいい声なら、先生と一緒にいろんな練習をした甲斐もあったというものだ。もう十分、私は抗った。自分の可能性を試して、未知の領域に足を踏み出し、そこから帰ってきた。

わたしはいまやわらかい声をだしている。

グループレッスン:二回目

今日はオーチョアトラスとメディオヒーロをやった。完全に目の前の人が動いてくれないという状態を何度もやり、心が折れるかと思った。
オーチョアトラスではフォローのひとに自分の前を動いてもらわねばならないのだが、どう動いてもらえばいいか分からず相手の体に触れている手がうろうろする。相手の人が初心者に不馴れだと完全に寒天と話しているかのようですいませんと思うし、かといってベテランの人にフォローしてもらいながらやるのもどうにも情けなくて苦しい。
頼みの綱の先生は、初めてタンゴをやりに来た人をフォローするので手いっぱいだ。

苦しすぎてプライベートレッスンは普通いつからするものなのか訊いてしまった。いつでもいい、もし今やったらブースターかけたスタートになるねとのこと。やったら私、もっとちゃんとリードというものをできるってこと……?!と悪魔が囁くが、残念ながら手持ちのお金はそんなにない。でもやりたい、もっとうまくなりたい、早くだ、あとではなく今。でも、あと一か月くらい(つまりあと四回くらい通ったら)、一度くらい試してもいいんじゃないかなと思っている。アルゼンチンタンゴへの興味はリード側に回ってからはぐんぐんと成長しているが、可能ならば週に二回行ってみたい……と囁きが再び聞こえてくるのを聞かないふりをする。生活と仕事があるので。無理なものは無理だ。

現時点でレッスンでは私の立場を指しながらたいてい「男性の側は~」と言われている。それがちょっと面白くもあり、普段"女性"と言われ続けている身からするとうまくトントンになる感触がある。そうそう、こうやって私は私を揺らし続けるのだ。無理矢理でもいい。自分の立場を強引でもいいから入れ替えていたい。

きっと「男性の側は~」という言葉がつらい、”男性”として見られていてリード側に立つノンバイナリーもいるのだろう。できるだけ近いいつか、「リードは~」「フォローは~」という言葉を使う流れのほうが大きくなればいいと思う。